『今徒然』 ~住職のひとこと~
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第55回 ~六道能化地蔵菩薩~
2025-03-04
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お地蔵様は、昔から、庶民の日常の信仰対象として、最も身近にあって親しまれてきた仏様です。地蔵菩薩とは、正式には仏=如来になるために今も修業を積んでいる身なので、菩薩と呼ばれます。野辺に佇む地蔵尊も、御堂に並んだ六地蔵も、人々の苦しみに寄り添い済度するためにいつでも駆けつけられるように、皆立っています。とにかく、お地蔵様は果てしもなく忙しい。賽の河原で、悪鬼に苛められる子どもを守護したり、六道の道行で迷う衆生の道案内をしたり、他にも人々の様々な悩みや傷みを救い、慰めるために、座っている暇もないほどいつも立ち働いているのです。
地蔵菩薩は、もともとバラモン教の女神《クシティガルバ》が起源とされています。クシティとは「大地」、ガルバは「胎内」を意味するところから、これが仏教に取り入れられて「地蔵」と呼ばれるようになった謂れです。釈迦が入滅してから、未来仏弥勒菩薩が出現するまでの五十数億年という涯てしない無仏の間、釈尊は衆生済度のために私たちの傍に地蔵菩薩をお遣わしになったという訳です。永い修業によって神通力を得た地蔵菩薩は、多くの功徳利益を施されるといわれます。『地蔵菩薩本願経』というお経には、二十八種の利益と、加えて七種類の利益が説かれます。
地蔵菩薩は、一般には比丘(僧侶)の姿で、額に白毫を頂き、左手に宝珠を持ち、右手に錫杖を携えた像容が典型ですが、寺や墓地の入り口で、よく見られる六体の地蔵菩薩は、六地蔵と呼ばれ、それぞれの檀陀、宝珠、宝印、持地、除蓋障、日光と名付けられ、六道の辻に現れて、衆生を導くといわれます。我が天台真盛宗のご開山の和讃に「圓戒国師と申せしは 二仏中間大導師 地蔵菩薩の化身なり」と唄われています。真盛宗では、仏壇のご本尊に阿弥陀如来を据え、その脇仏として地蔵菩薩と圓戒国師を配するのが習わしです。切っても切れない地蔵菩薩とのご縁と申せましょう。
ところで、温顔で人々に癒しと安らぎを与えるお地蔵様には、実はもう一つのストーリー“別の顔”があることをご存知でしょうか。地蔵菩薩は、地獄、冥界の主である閻魔大王と同一人物だという説があります。インドのヒンズー教の神が、中国に伝わり、仏教に受け入れられた時、六道能化の主としての.地蔵菩薩に、前世の善悪を裁く地獄の裁判官の役目も委ねられたという訳です。お地蔵様の慈悲深い穏やかなご尊顔の下には、恐ろしい閻魔王の怒気を含んだ赤ら顔が隠れているのです。此の世で造りし罪障消滅の為に「南無六道能化地蔵菩薩」おんかかかびさんまえいそわか。
令和7年 3月4日
