『今徒然』 ~住職のひとこと~
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第34回 ~『阿弥陀経』の不思議~
2023-05-01
天台宗ほか浄土系の宗派などで、最もよく読誦されるお経に『仏説阿弥陀経』があります。釈尊が舎利仏に極楽浄土の荘厳と阿弥陀仏の功徳を説き聴かせます。ここ舎衛国の祇園精舎から西の方へ十万憶の国土を過ぎた処に極楽世界がある。既に、ここで私たちは異次元ファンタジーの世界にトランスを余儀なくされます。また、極楽世界のオーナー、阿弥陀仏は、仏になられてから、今までに十却という永い時間が過ぎている。いずれにしても、"尽虚空遍法界"を跨いで渡るような話ですから、修行を積んだ菩薩とはいえ、彼らの智慧や知識を以ってしても及び難いところです。
具さに語られる極楽世界の様子に、弟子たちは、皆言葉を失い、息を呑んで傾聴します。彼の国に住む人々は、一切の心身の苦しみも無く、永遠の安楽を受けて過ごすことが出来る。また、彼の国では、金銀、瑠璃、玻璃でできた七重の玉垣、七重の飾り網、七重の並木が、国中を囲繞し、七宝からなる池には八功徳水が湛えられ、底には一面に金の砂が敷きつめられて、池の四方には四宝で飾られた階が架けられ、その上に七宝で厳飾された楼閣が築かれている。池の中の大蓮華は車輪の如く、青い花は青光、黄色い花は黄光、赤い花は赤光、白い花は白光を放ちて、微妙、香潔なり。
極楽浄土では、常に妙なる音楽が奏でられ、大地は黄金からなり、昼夜六時に曼陀羅の花が雨のように降り注ぐ。人々は、いろいろな花を器に盛り、他の仏国土の多くの仏に供養する。曼陀羅華のシャワーとは、ディズニーリゾートでもお目にかかれぬ大掛かりな演出のプロデュースではありませんか。但し、昼になると人々は、食事をとるために本国へ戻らねばなりません。極楽世界は金銀宝飾で溢れていても、食物が一切ありません。この仏国土に、塵芥がなくどこまでも清浄である所以でしょうか。不浄なるものを連想させる如何なる汚穢も、極楽世界には相応しくないようです。
また、彼の国には種々の珍しい色とりどりの鳥がいる。白鵠、孔雀、鸚鵡、迦陵頻伽、舎利、共命などの鳥である。これらの鳥は、昼夜六時に優雅な音で鳴くが、いずれも罪業の報いとして鳥に生まれてきたわけではない。なぜなら、極楽には地獄・飢餓・畜生の『三悪道』はないからである。これらの鳥たちは、極楽の天空を舞う天女たちを比喩したものでしょうか。殊に、美女の顔をした極彩色の翼を持つ迦陵頻伽は、最も妙音声で鳴くと謂われます。因みに、美女の上半身をした豹などの19世紀末の《象徴主義》の意匠は、こちらは今生の美と快楽の頽廃的極致といえましょうか。
令和5年 5月1日